問題
有害物質の人体影響に関する記述として,誤っているものはどれか。
⑴ 生体内に水銀が侵入した場合,体内全蓄積量あるいは臓器内蓄積量が閾値を
超えなければ,長期間体内に存在しても障害を与えることはない。
⑵ 重金属の生体内への侵入経路には,吸入摂取,経口摂取,経皮吸収があるが,
侵入経路の違いによって毒性の発現が異なることはない。
⑶ 有害性金属が複合して生体内に作用する場合,金属間の相互作用により毒性
が弱められることがあり,この現象は拮抗作用といわれる。
⑷ カドミウム,水銀,亜鉛,鉛などの重金属の暴露により肝臓などで誘導生合
成されるメタロチオネインは,重金属の解毒作用の役割を果たしている。
⑸ 生物学的半減期の長いものは,排泄されにくいので,毒性が現れやすい。
正解
正解は(2)。
侵入経路の違いによって毒性の発現は異なります。
解説
(1)
正しい。水銀は海水や生物にもごく微量の水銀が含有されていますが、一般に人がこのごく微量の水銀(閾値以下)で中毒を起こすことはありません。
(2)
環境中に存在する金属は主に
①経口摂取
②経気道暴露
③経皮吸収
を通じて体内に侵入します。
そしてこの侵入経路の違いにより、毒性の発現が異なることが多いです。
例えば水銀の場合
・経口摂取 → 消化管からの水銀吸収はほとんどなく、毒性は軽微
・経気道暴露 → 水銀蒸気として暴露した場合には体内によく吸収され、毒性は非常に強い
よって(2)は誤り。
(3)
正しい。例えば拮抗作用として以下のようなものが知られています。
・無機水銀摂取 → セレンが毒性軽減
・カドミウム中毒 → 亜鉛が抑制的に作用
(4)
正しい。メタルチオネインはカドミウムや水銀などの金属によって肝臓などで誘導性合成されます。
例えば生体がカドミウムの暴露を受けた場合、かなり早期にメタロチオネイン(MT)が生合成され、カドミウムはCd-MTとして捕捉され安定な状態となり、解毒的作用を受けます。
(5)
正しい。半減期の長いものは生体内に残留する時間が長い、つまり排泄されにくいため毒性が現れやすいです。