問題
金属の生体影響に関する記述として,誤っているものはどれか。
⑴ 重金属に暴露されると生合成されるメタロチオネインは,重金属の毒性を弱める働きをしている。
⑵ 有害性金属が複合して生体内に作用する場合,それぞれの毒性が相加的,あるいは相乗的に現れることがあるが,逆に毒性が弱められることもある。
⑶ 有機水銀は塩化水銀(Ⅱ)に比べて生物学的半減期が長いため,排泄されにくい。
⑷ 無機水銀は血液-脳関門を容易に通過し,脳内に蓄積する。
⑸ 総金属暴露量が同一量であっても,一時に多量暴露した場合と,少量ずつ長期間の暴露の場合とでは毒性の程度は異なる。
正解
(4)
解説
令和2年の問8と同じところからの出題です。頻出問題。
(1)
メタロチオネイン(MT)は、カドミウムや水銀などの金属によって肝臓などで誘導生合成される。
例えばカドミウムに暴露した場合、すみやかにMTが生成され、カドミウムはCd-MTとして捕捉される=安定な状態となり解毒的作用を受ける。よって正しい。
(2)
毒性が弱められるケースとして、例えば以下がある。
・無機水銀中毒 – セレン
・カドミウム中毒 – 亜鉛
また、拮抗作用として以下も知られている。
・マンガン – 鉄
・モリブテン – 銅
よって正しい。
(3)
生物学的半減期が長いものは生体内に残留する時間が長い、つまり排泄されにくいので毒性が現れやすいです。
ラットにおける生物学的半減期は
- 有機水銀(メチル水銀):15〜20日
- 塩化水銀(Ⅱ):4〜10日
よって有機水銀は塩化水銀(Ⅱ)に比べて生物学的半減期が長いため,排泄されにくい。正しい。
(4)
特に慢性毒性において
- 無機水銀
- 腎障害、軽度の肝障害
- 血液 – 脳関門を通過しないため脳中への蓄積はわずか
- メチル水銀
- 特異的な脳神経障害
- 血液 – 脳関門を容易に通過し脳内に蓄積する
同じ水銀化合物でも、化学種により中毒の相違があるのは要注意。
脳内に蓄積するのはメチル水銀。よって誤り。
(5)
総金属暴露量が同一量であっても,一時に多量暴露した場合と,少量ずつ長期間の暴露の場合とでは毒性の程度は異なる。まず少量ずつの場合は、吸収量と排泄量のバランスが取れている間は障害を受けることがない。また、バランスが取れていない場合は一時に大量暴露した場合は急性毒性、少量ずつ長期間の暴露の場合は慢性毒性となる。よって正しい。